「上手だね」の隣で、何も描けない子がいるかもしれない

🌷子育て・保育への思い

幼稚園では、絵画活動をすることがあります。

絵の具で描いたり、クレパスで描いたり、マジックで描いたり。

その時々で、いろいろな画材を使います。

そんな活動をしていると、つい目に入るのは、上手に絵を描いている子。

「わぁ、上手だね!」

「すごいね!」

思わずそう言ってしまうことがあります。

もちろん、上手に描けることを認めてもらって、ますます絵が好きになる子もいます。

どんどん描いて、描くことを楽しめるようになる。

それは、とても素敵なことです。

でも、その子の隣に、

何も描き出せずにいる子はいませんか?

画用紙を前にしたまま、手が止まっている。

周りの友だちの絵ばかり見ている。

描き始めても、すぐに消したくなる。

描いた絵を隠そうとする。

「これでいいのかな」

「変じゃないかな」

そんなふうに、自分の描く絵に自信が持てない子もいます。

実は、私もそうでした。

そして、今でもそうかもしれません。

「自由に描いていいよ」

そう言われると、まず周りを見てしまう。

隣の人は何を描いているんだろう。

みんなはどんな絵を描いているんだろう。

自分も同じように描いたほうがいいのかな。

「自由にしていい」ということが、かえって難しいこともあるんです。

だから私は、絵画活動のとき、できるだけ「上手だね」という言葉を使わないようにしています。

その代わり、

「大きく描けたね」

「いろんな色を使ったね」

「いっぱい描いたね」

「楽しそうな絵だね」

「この色、選んだんだね」

「ここ、おもしろいね」

そんなふうに、その子が描いたものや、描いている過程を言葉にするようにしています。

「上手」「下手」という評価ではなく、

「あなたの絵をちゃんと見ているよ」

と伝えたいからです。

もちろん、「上手だね」という言葉が悪いわけではありません。

その言葉で自信がつく子もいます。

嬉しくて、もっと描きたくなる子もいます。

ただ、その言葉を聞いているのは、褒められた子だけではありません。

その隣で、まだ何も描けずにいる子も聞いています。

「○○ちゃんの絵、上手だね」

その言葉を聞いて、

「じゃあ、私の絵は上手じゃない」

と感じてしまう子がいるかもしれない。

だからこそ、保育者としては「上手」という一つの物差しだけで、子どもの絵を見ないようにしたいと思っています。

そして、どれだけ保育者が気をつけていても、子ども同士のやり取りの中では、こんなこともあります。

「なにそれ」

「へんなの」

子どもは素直です。

思ったことを、そのまま口にすることもあります。

もちろん、

「そんなこと言わないよ」

「自分が言われたら嫌でしょ」

と伝えることもできます。

相手を傷つける言葉は、きちんと伝えていかなければいけません。

でも、私はそんなとき、

「そお?先生はとってもすてきだと思うけどなー」

と伝えることがあります。

「へんなの」と言った子を責めるのではなく、

「先生は違う見方をしているよ」

と、別の見方をそっと置いてあげる。

そして、言われた子には、

「自分の絵はへんなのかもしれない」

だけで終わらないように、

「先生は素敵だと思ってくれた」

という場所を作ってあげたい。

絵に正解はありません。

赤い太陽を描いてもいい。

空が緑でもいい。

人の顔が丸じゃなくてもいい。

画用紙いっぱいに描いてもいい。

小さく描いてもいい。

何かを描いてもいいし、線や色だけでもいい。

その子が「こう描きたい」と思ったことを表現できること。

それが、絵画活動の大切なところだと思っています。

ただし、

「自由に描いていいよ」

というのは、

「何をしてもいいよ」という意味ではありません。

ここは、保育者がきちんと伝えなければいけないところです。

絵の具を口に入れない。

筆を振り回さない。

絵の具を友だちにかけない。

使う場所や道具を守る。

使ったものは片付ける。

友だちの作品を勝手に触らない。

安全に活動するためのルールや、みんなが気持ちよく活動するための約束は、きちんと伝えます。

「自由」と「何でもあり」は違う。

大人が守るべき枠はある。

その枠の中では、

「何を描く?」

「何色を使う?」

「どんな形にする?」

「どう表現する?」

そこは、その子自身に委ねていい。

私は、そんな絵画活動にしたいと思っています。

そして、絵画活動で大切なのは、絵が上手になることだけではないと思っています。

「描いてみようかな」と思えたこと。

自分で色を選んだこと。

昨日より少し大きく描けたこと。

最後まで描いてみたこと。

先生に「見て」と言えたこと。

友だちの絵を見て、「素敵だね」と言えたこと。

そして何より、

「描くって楽しいな」

と思えたこと。

それも全部、大切な「できた」です。

子どもたちにとって、絵を描くことが、

「上手に描かなきゃ」

「みんなより上手じゃないと恥ずかしい」

という時間になってしまったら、もったいない。

私自身、今でも「自由に描いて」と言われると、周りを見てしまう。

だからこそ、何も描けずにいる子の気持ちを、少しでも想像できる保育者でいたいと思っています。

上手な絵を描ける子を、もっと伸ばしてあげることも大切。

でも同じくらい、

「自分の絵でいいんだ」

と思える子を増やすことも大切なんじゃないでしょうか。

誰かと比べなくていい。

正解を探さなくていい。

先生が用意した「上手な絵」に近づかなくてもいい。

その子がその子らしく描いたものを、

「素敵だね」

と受け止めてもらえる。

そんな経験が、次の「やってみよう」につながっていくのだと思います。

絵が上手になることよりも、絵を描くことが好きになること。

そして、

「これが私の絵だよ」と、自分の表現を大切にできること。

それも、絵画活動で育てたい大切なことのひとつだと思っています。

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