幼稚園では、絵画活動をすることがあります。
絵の具で描いたり、クレパスで描いたり、マジックで描いたり。
その時々で、いろいろな画材を使います。
そんな活動をしていると、つい目に入るのは、上手に絵を描いている子。
「わぁ、上手だね!」
「すごいね!」
思わずそう言ってしまうことがあります。
もちろん、上手に描けることを認めてもらって、ますます絵が好きになる子もいます。
どんどん描いて、描くことを楽しめるようになる。
それは、とても素敵なことです。
でも、その子の隣に、
何も描き出せずにいる子はいませんか?
画用紙を前にしたまま、手が止まっている。
周りの友だちの絵ばかり見ている。
描き始めても、すぐに消したくなる。
描いた絵を隠そうとする。
「これでいいのかな」
「変じゃないかな」
そんなふうに、自分の描く絵に自信が持てない子もいます。
実は、私もそうでした。
そして、今でもそうかもしれません。
「自由に描いていいよ」
そう言われると、まず周りを見てしまう。
隣の人は何を描いているんだろう。
みんなはどんな絵を描いているんだろう。
自分も同じように描いたほうがいいのかな。
「自由にしていい」ということが、かえって難しいこともあるんです。
だから私は、絵画活動のとき、できるだけ「上手だね」という言葉を使わないようにしています。
その代わり、
「大きく描けたね」
「いろんな色を使ったね」
「いっぱい描いたね」
「楽しそうな絵だね」
「この色、選んだんだね」
「ここ、おもしろいね」
そんなふうに、その子が描いたものや、描いている過程を言葉にするようにしています。
「上手」「下手」という評価ではなく、
「あなたの絵をちゃんと見ているよ」
と伝えたいからです。
もちろん、「上手だね」という言葉が悪いわけではありません。
その言葉で自信がつく子もいます。
嬉しくて、もっと描きたくなる子もいます。
ただ、その言葉を聞いているのは、褒められた子だけではありません。
その隣で、まだ何も描けずにいる子も聞いています。
「○○ちゃんの絵、上手だね」
その言葉を聞いて、
「じゃあ、私の絵は上手じゃない」
と感じてしまう子がいるかもしれない。
だからこそ、保育者としては「上手」という一つの物差しだけで、子どもの絵を見ないようにしたいと思っています。
そして、どれだけ保育者が気をつけていても、子ども同士のやり取りの中では、こんなこともあります。
「なにそれ」
「へんなの」
子どもは素直です。
思ったことを、そのまま口にすることもあります。
もちろん、
「そんなこと言わないよ」
「自分が言われたら嫌でしょ」
と伝えることもできます。
相手を傷つける言葉は、きちんと伝えていかなければいけません。
でも、私はそんなとき、
「そお?先生はとってもすてきだと思うけどなー」
と伝えることがあります。
「へんなの」と言った子を責めるのではなく、
「先生は違う見方をしているよ」
と、別の見方をそっと置いてあげる。
そして、言われた子には、
「自分の絵はへんなのかもしれない」
だけで終わらないように、
「先生は素敵だと思ってくれた」
という場所を作ってあげたい。
絵に正解はありません。
赤い太陽を描いてもいい。
空が緑でもいい。
人の顔が丸じゃなくてもいい。
画用紙いっぱいに描いてもいい。
小さく描いてもいい。
何かを描いてもいいし、線や色だけでもいい。
その子が「こう描きたい」と思ったことを表現できること。
それが、絵画活動の大切なところだと思っています。
ただし、
「自由に描いていいよ」
というのは、
「何をしてもいいよ」という意味ではありません。
ここは、保育者がきちんと伝えなければいけないところです。
絵の具を口に入れない。
筆を振り回さない。
絵の具を友だちにかけない。
使う場所や道具を守る。
使ったものは片付ける。
友だちの作品を勝手に触らない。
安全に活動するためのルールや、みんなが気持ちよく活動するための約束は、きちんと伝えます。
「自由」と「何でもあり」は違う。
大人が守るべき枠はある。
その枠の中では、
「何を描く?」
「何色を使う?」
「どんな形にする?」
「どう表現する?」
そこは、その子自身に委ねていい。
私は、そんな絵画活動にしたいと思っています。
そして、絵画活動で大切なのは、絵が上手になることだけではないと思っています。
「描いてみようかな」と思えたこと。
自分で色を選んだこと。
昨日より少し大きく描けたこと。
最後まで描いてみたこと。
先生に「見て」と言えたこと。
友だちの絵を見て、「素敵だね」と言えたこと。
そして何より、
「描くって楽しいな」
と思えたこと。
それも全部、大切な「できた」です。
子どもたちにとって、絵を描くことが、
「上手に描かなきゃ」
「みんなより上手じゃないと恥ずかしい」
という時間になってしまったら、もったいない。
私自身、今でも「自由に描いて」と言われると、周りを見てしまう。
だからこそ、何も描けずにいる子の気持ちを、少しでも想像できる保育者でいたいと思っています。
上手な絵を描ける子を、もっと伸ばしてあげることも大切。
でも同じくらい、
「自分の絵でいいんだ」
と思える子を増やすことも大切なんじゃないでしょうか。
誰かと比べなくていい。
正解を探さなくていい。
先生が用意した「上手な絵」に近づかなくてもいい。
その子がその子らしく描いたものを、
「素敵だね」
と受け止めてもらえる。
そんな経験が、次の「やってみよう」につながっていくのだと思います。
絵が上手になることよりも、絵を描くことが好きになること。
そして、
「これが私の絵だよ」と、自分の表現を大切にできること。
それも、絵画活動で育てたい大切なことのひとつだと思っています。



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